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三成の足は妙に弾んでいた。

いつも目がぎらついてるだとか、肩がぶつかったら斬滅されるだとか、恐ろしい噂のせいで社内で密かに"凶王"と恐れられている彼が、スキップ(本人は早歩きのつもり)をしている様はまさに地獄絵図であった。

その姿にすれ違う人たちは驚愕のあまり二度見し、いつも三成にいじめられている同僚の小早川はその場に伏せてアタッシュケースで頭をガードした程だった。


だが今の三成にはそんな回りの状況など見えていないようだ。




「ただいま帰りました!」

勢いよく玄関のドアが開いた。当然笑顔で半兵衛が出迎えてくれると思っていた三成は、面食らったようにしばらく目をぱちくりさせていた。

そして期待していた自分に恥ずかしくなり、顔を赤くしながら鍵を閉めた。

そろりと、何故か忍び足で廊下を歩く。


「は、半兵衛様…ただいま帰りまし……いらっしゃらない…」

リビングはシンとしていて誰かがいる気配はない。三成は少ししょんぼりしてから半兵衛を探し始めた。


寝室、トイレ、ベランダ、半兵衛の自室…思い当たる場所は全て探したが半兵衛はいない。

三成は軽くショックを受けながらよろよろとリビングに戻った。


(もしかしたら少しお出かけになっているのかも……あ、)

三成は思い出したように自分のスーツの内ポケットをまさぐった。この手があったというように三成はすぐさま半兵衛に電話をかけた。


しばらくして、どこからか唸るようなバイブ音がした。三成は携帯を耳にあてたまま音のするほうに向かった。


その音はどうやら脱衣所から漏れていた。ハッとした三成はドアを開けようとしていた手をさっと引っ込めた。


(も、ももももし半兵衛様がご入浴されていたら…)

三成の喉がごくりと鳴った。

(やはり失礼だろうか…いや、脱衣場なら…いやでも…)

脱衣所の前で落ち着きなく動き回る姿は、理性と本能の狭間で戦っているようにも見えた。


(もしかして半兵衛さまが浴室でご気分を悪くされているのかもしれない…!)


三成は意を決したように脱衣場のドアノブに手をかけた。ゆっくりと中に入ると、浴室に電気がついていた。心なしか鼻歌のようなものも聞こえる。


「…は、半兵衛さま…」

三成は呼び掛けたつもりが、どぎまぎし過ぎ、最後のほうは最早消え入りそうになっていた。



「………誰ですか?」

「?、…ただいま帰りました、三成です」

浴室から聞こえる声に違和感を感じながらも、三成は一歩浴室に近付いた。

「あぁ、お前がダークエンジェルですか!」

(ダークエンジェル!?!?)

三成はわけがかわからずに目をぱちくりさせた。半兵衛の意味不明な言動に、もしやと思い三成は申し訳なさそうに口を開いた。


「あ、あの…半兵衛さま?失礼ですが、酔ってらっしゃるのでは…」

「…酔ってなど…ヒック…いません…」

(やはり酔ってらっしゃる…)

三成はバスタオルを手にとり、浴室に向かって呼び掛けた。


「半兵衛様、飲酒時の長風呂はお体に障るかと…」

「ヘーキです。」

「どうされたのですか?そのように…わが、いえ…その、まるで子供のような…」

「…ヒック…なんですって…?」

「あっ、いえ!失言でした!それであの…失礼だとは思いますが、もし上がられるのでしたら私がお力添えを…」



「その必要はないよ、三成くん」

「っ!?」

背後から聞こえた声に勢いよく振り返ると、脱衣場のドアのところに呆れ顔の半兵衛がたっていた。

「はっ、半兵衛様!?」

「全く三成くんは…」

半兵衛は三成に歩み寄りながら、手に持ったコンビニの袋を適当にサイドテーブルに置いた。三成が袋に視線を向けたのに気付くと、半兵衛は「水だよ」と答えた。

「…今日、ぼくの部下の大友君が接待席でお酒を飲み過ぎて撃沈してしまってね…さっきぼくのところに連絡があったんだ」

「じゃあ、今浴室にいるのは…」

「そ。その大友くん。さっき迎えに行ってきたんだけど、意識はあったからシャワー浴びさせたんだけど…」

半兵衛はクスッと笑いながら三成に近付いた。ほんの少し背伸びして三成の耳に唇を寄せると、


「まさか三成くんに襲われそうになるなんてね」

「ち、違います!私は半兵衛様が……んん!」

三成の言葉を半兵衛がキスで軽く遮った。突然のことに三成は顔を真っ赤にさせて瞬きを繰り返した。

「…っ、は、半兵衛様…!//」

「三成くん、ぼくと他人の声も聞き分けられないなんて…ちょっとがっかりだよ」

「そ、それは…」

半兵衛は何事もなかったかのように話を続けた。三成はどこを見ていいのかわからず目線を泳がせた。

「…なんてね。僕のほうこそ、早く帰れるから食事がしたいなんていってたのに…ごめんね?」

「い、いえ!とんでもない…!」


「三成くん、少ししゃがんでごらん」

「は、はい!」


ちゅっ


今度はおでこに優しいフレンチキスが降ってきた。三成は何故こんなに幸せなのかを考えるようにぎゅっと目を閉じた。


「お誕生日おめでとう」

「…!、あ、ありがとう…ございます…///」


自分でも忘れていたことだっただけに、尚いっそう三成は顔を赤らめた。


「一応プレゼントは用意したんだけど、気に入って貰えるかわからなくて……何か欲しいものはあるかい?」


半兵衛は困ったように笑って三成を見つめた。


がばっ

「わっ!…三成くん?」

三成は何も言わずにぎゅっと半兵衛を抱き締めたまま、にやけるのを我慢するように目を閉じた。


(もし、許していただけるのなら…)





そのあと、勿論宗麟に甘い雰囲気をぶち壊されたのはいうまでもない。

えんど


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