DQX
愛してる
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「あなた……」
 私は隣でぐっすり眠っている彼の頬にそっと触れた。私はふっと息を吐き出すと、自分の無防備な身体にバスローブをまとった。そして、ベランダに出る。
 ここはポートセルミの宿屋。私たちは結婚をして、父に旅の許しを受け、サラボナから港町ポートセルミに来た。明日、この町の父の船で、私たち夫婦は旅に出る。わたしはすごく幸せだった。ここまで来るのに、彼はとても私に気を使ってくれた。
 今日、初めて私と彼は、身体を重ねた。無論、私は初めて。彼もそうだったみたいだが、ぎこちないながらも、うまくいったほうだと思う。でも、そのときを思い出すと少し恥ずかしくなってしまう。
 でも、自然と顔は綻ぶ。

 最初は不安だった。最初、結婚式を挙げたとき、傍で見ていてくれた彼の幼馴染、ビアンカさんの笑顔の奥の切ない表情を見て。
 彼女は、彼はまだ、互いに思いがあるのだろうか。もしかしたら、彼は私や父の目を気にして、仕方なく私を選んだのだろうか。彼はまだ、ビアンカさんが好きなんだろうか―私はそんなことばかり考えてしまっていた。
 でも、さっき、ことの最中彼は言ってくれた。
 「愛してる」って。
 結婚しても、彼からそんな言葉が出ることは無かった。だから、言われた時、私は涙が出るほど嬉しかった。私も「好きよ」って言った。抱き合いながら―

「……フローラ」
 私がそんなことを思っていると、後ろからいつの間にか起きていた彼が私を呼んだ。
「あなた……」
「こんなところにずっといたら風邪ひくぞ」
 彼はそう言って温めるように私の肩を抱いた。私はそんな彼の気遣いに、また嬉しくなった。そして、私の肩に置かれた彼の手を、そっと握った。
「フローラ……?」
「あなた、ありがとう」
「……」
 彼は驚いたように目を見開いた。でもすぐ笑顔になると、そっと顔を私の首筋に近づけた。
「どういたしまして」
 彼はそう言うと、そのまま私の首筋に口付けした。
「あ、あなたったら……」
 私は急に恥ずかしくなって目を伏せた。彼はくすりと笑った。
「ねえ、見てみなよ」
 え?と私は首を傾げた。そして、彼が真っ直ぐ指差す方向を見て、感動した。そこには広大な海が広がり、灯台の光や月明かりが、美しく海面を照らしていた。
「綺麗……」
「あの海の向こうに、俺たちはこれから行くんだよな」
「ええ」
「そしたら行きたいところがあるんだ」
 どこ、と私は訪ねた。彼は意思が強そうな瞳をはるか遠くに向けながら答える。
「俺の、生まれた場所」
「あなたの、故郷……」
「知りたいんだ。俺が、どこで生まれたのか。そして、母さんのことも……」
 そういえば、彼は彼のお母様の顔を知らない。そこで私は、あることを思った。
「フローラ」
「はい?」
「一緒に、来てくれるか?俺の、故郷探しに……」
 彼の質問は、私がさっき思っていたことだった。私は彼の手を一層強く握った。答えは一つしかない。私はひとつ頷いた。
「もちろん。だって約束したでしょう?」
「え?」
「ずっと、私は貴方についていくって。ずっと一緒にいるって」
 彼は嬉しそうに微笑んだ。そうだったな、と言って。
「フローラ、愛してる」
 彼はそう言った。私も、と言って私たちはまた、深い口付けを交わしたのだった……
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