DQX
かくれんぼ
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 ここは今や平和となったのどかなラインハット城。今日ここにグランパニア王一家が遊びにきていた。王兄ヘンリーは大いに歓迎した。
「おー、よく来てくれたなぁアベル。ま、ゆっくりしていってくれよ」
 彼はグランパニア王であり彼の親友であるアベルの肩を叩きながらそう言った。彼らの隣にいたビアンカとマリアの両夫人は早速談笑して盛り上がっていた。そして、部屋の端で珍しそうにしていたのはアベルの子供、レックスとタバサだった。アベルは二人を呼ぶ。
「レックス、タバサ。こっちにおいで」
 レックスとタバサはにこにこしながら彼らの元にやってきた。そこでヘンリーはそうだ、と何かを思いついたように手を叩いた。
「二人とも、俺の息子のコリンズと遊んでやってくれないか?あいつ、ここら辺に同い年の子供があまりいなくて暇なんだ。多分今自分の部屋にいると思うんだが……いいかな?」
 ヘンリーはそうレックスとタバサに頼んだ。二人はそっと顔を見合わせた。そして、少し困ったように父アベルの方へ顔を向ける。
「ん?ほら、二人とも王子と遊んできなさい。お前たちも同い年の友達が出来て嬉しいだろう?」
 アベルはにこやかにそう言った。レックスとタバサはにわかに落胆しながらはあいと返事をした。そしてこの部屋を後にした。
「アベルの子供は素直だなぁ。お前に似たのかな」
 ヘンリーがぽつりと言った。アベルはふっと笑った。
「コリンズ王子もお前にそっくりだよ」

「もー、お父さんもヘンリーさんもひどいなぁ」
「そういうこと言っちゃだめなのよ、お兄ちゃん」
 コリンズの部屋に向かう途中、レックスが文句を零した。宥めていたタバサも、短い溜息をついた。
「……でもコリンズくんって乱暴なのよね」
「んー、だけどコリンズくん、お城にあんまり友達いないんだよね。ぼくたちは双子だからいいけど」
「そうねぇ」
 そう言ってるうちに、二人はコリンズの部屋の前に着いた。そして、レックスはそっとドアをノックした。すると、カチャリと音を立て相変らず唇を尖らせた顔でコリンズ王子が出てきた。
「なんだ、お前たちか。何の用だよ?」
 コリンズのその言葉にレックスとタバサはしかめっ面をした。
「ヘンリーさんがせっかくだからコリンズくんと遊んでこいって」
「ふん、親父がか。まあ、お前たちはオレの子分だからな。部屋に入らしてやろう」
 コリンズは自分の部屋に入るよう促した。そこでタバサがレックスにぼそりと囁いた。
「ひどい言葉づかい……」
「よし、じゃあ王様ゲームしようぜ」
 コリンズは二人が部屋に入ってきた途端そう言った。王様ゲーム?と二人が首をかしげると、コリンズは偉そうに腕組をした。
「知らないのか?王様ゲームってのはな、王様が子分に何でも命令するゲームなんだぜ」
 と、微妙に間違った説明をした。
「ふーん。あんまり面白く無さそうだね……」
 レックスが言った。タバサも頷く。コリンズはそんな二人の態度に眉を潜めた。
「いいから始めるぞ。王様はオレだ」
「えー!何でよ?」
「だって俺はじきにこの国の王様になるんだぞ」
 その言葉にタバサは歯切れよく言い返した。
「それならお兄ちゃんだってお父さんの次にグランパニアの王様になるんだから!」
 コリンズはタバサの言葉に押されたように身を引いた。当のレックスは半分感心したように、そして半分驚いたように妹を見た。コリンズはばつが悪そうにかぶりを振った。
「じゃあ王様ゲームはやめだ。かくれんぼしようぜ」
「かくれんぼならいいけど」
「じゃあじゃんけんで鬼を決めよう」
 じゃーんけーんぽい、と三人はじゃんけんをした。負けたのはレックスだった。
「じゃあ、三十秒数えるね。隠れていいのはお城の中だけ」
 レックスはそういうと壁によりかかっていーち、にー、と数え始めた。タバサがどこに隠れようか悩んでいると、コリンズは彼女の手を引っ張った。
「きゃ、コリンズくん?」
「いい隠れ場所があるんだ」
「本当?」
「うん。ほら、ついてきな」
 タバサは言われるままコリンズに着いていった。

「……にーじゅく、さーんじゅ!もーいーかーい!」
 レックスは数え終わり、そう叫んだ。返事は、無かった。
「まぁこう広いんじゃ声届かないよね。じゃ、二人を探さなきゃ!」
 まずレックスは、タンスの裏を探した。が、いなかった。そして、彼は後々思った。
「お城の中って、範囲広すぎー!!」

 一方、隠れている側の二人。タバサはおどおどとコリンズに尋ねる。
「ここは?」
「物置だよ。がらくたばっか置いてある」
「勝手に入っていいの?」
「大丈夫、ここオレの一つの遊び場だから。それよりさぁ……」
 何?とタバサは聞いた。コリンズは照れ臭そうに頭を掻いた。辺りは薄暗く、タバサはコリンズの頬が赤くなっているとは知る由も無かった。
「……お前、レックスのことどう思ってる?」
「お兄ちゃん?強くて優しいよ。頼りになるの。ちょっと天然だけど」
 ふうん、とコリンズは気の無い返答をした。そして、続ける。
「じゃあ、オレのことは、どう思ってる?」
「え、コリンズくんのこと……?」
 タバサは戸惑ったように首をかしげた。しかし、微笑すると、こう言った。
「ちょっと意地悪だけど……この前帽子くれたり、この隠れ場所教えてくれたところは優しいと思うよ」
 コリンズは、その言葉に一層顔を赤らめた。無論、タバサには判らない。そして、コリンズは再び彼女に尋ねる。
「じゃ、じゃあ、オレとレックス、どっちが、す、す、す……」
 コリンズは上手く呂律が回らなかった。が、タバサは無邪気にも理解した。
「好きかって?そりゃあお兄ちゃんだよ〜」
 その瞬間、コリンズの頭上に重い石が落ちてきた。初めての、失恋(?)は、痛かった。
「こ……この、ブラコン!」
 コリンズはそう言うと、たったと外に出てしまった。タバサは唖然としたように目を見張った。
「ぶらこんって、何?」
「あー、コリンズくんやっとみつけたー!」
 そこで、物置の外からレックスの元気のいい言葉が聞こえた。タバサはそっと物置から出た。コリンズはきっとレックスを睨みつけていた。
「な、何?」
「お前なんかに、負けないからな!」
「え?」
「覚えてろよ!」
 唖然とするレックスをよそに、コリンズは走って階段を上っていった。隠れていたタバサは思わず一歩前に出て叫んだ。
「コリンズくん!」
「何だよ!どうせお前はオレなんか嫌いなんだろ」
「私、コリンズくんのことも嫌いじゃないよ?」
「!」
 そこで、たまたまトイレに行っていたアベルは、丁度三人を見つけた。そして、なにやら只事じゃない様子を黙って見た。
「な……何て言った?」
「だからコリンズくんのことも私、まあまあ好きよ。前は嫌いだったけど……結構優しいところあるから。」
 タバサは笑顔でそう言った。コリンズは顔を今までで一番紅潮させた。そして、踵を返して再び猛ダッシュで階段を駆け上がっていった。二回ほど、コケた。
 父も、コケた。

 夕暮れ。グランパニア一家は、ルーラでラインハットから帰った。かくれんぼ以来、コリンズはタバサに話しかけられるたび、舌が回らなくなって、ロクな話は出来なかった。そして、同時にレックスをライバル視するようになった。何故か、アベルの様子も変だった。
「アベル、どうしたの?」
 眠りに着く前、ビアンカは様子が変な夫に尋ねた。彼は、はぁーっと深い溜息をついた。
「こうやって彼女は俺たちから離れてゆくのか」
「は?」
 そう言ってアベルは毛布を被った。ビアンカは何が何だかわからなかった。そこでタバサが彼女の袖を掴んだ。
「ねえねえお母さん」
「あら、どうしたのタバサ」
「ぶらこんって、なあに?」
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